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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)825号 判決 1997年5月07日

原告

宮田幸果

右法定代理人親権者母

宮田典子

原告

宮田和卓

右法定代理人親権者母

宮田典子

原告

宮田恭裕

右法定代理人親権者母

宮田典子

原告

宮田典子

右四名訴訟代理人弁護士

向田誠宏

被告

乙山春男

右訴訟代理人弁護士

亀井尚也

主文

一  被告は、原告宮田典子に対し、金一〇六九万一四六四円及びうち金一〇五一万二八三八円に対する平成六年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告宮田幸果、同宮田和卓、同宮田恭裕に対し、それぞれ金三二〇万三八二一円及びうち金三一四万四二七九円に対する平成六年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの請求をその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告宮田典子に対し、金一五四二万八五八七円及びうち金一五二四万九八二〇円に対する平成六年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告宮田幸果、同宮田和卓、同宮田恭裕に対し、それぞれ金四六四万二八六三円及びうち金四五八万三二七四円に対する平成六年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、後記事故(以下「本件事故」という。)により死亡した訴外亡宮田確郎(以下「亡確郎」という。)の相続人である原告らが、被告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金(本判決の争点2に対する判断2(四)、3(三)参照)である。

二  争いのない事実等(特に証拠の記載のないものは当事者間に争いがない。)

1  事故の発生

(一) 発生日時

平成六年一二月二五日午前一〇時五〇分ころ

(二) 発生場所(乙第三号証により認められる。)

兵庫県出石郡但東町河本字貝原四四番二所在の河本生産森林組合所有の山林内

(三) 事故態様

亡確郎と被告は、その他の友人八名とともに、右発生日時に右発生場所付近で、狩猟を行っていた。

そして、右狩猟中、被告が、亡確郎を獲物と誤認してライフル銃を発射し、同人に命中させ、よって、即時同所において、同人を、後頭部貫通銃創による脳損傷により死亡させた。

2  責任原因

被告は、獲物であることを充分に確認した上でライフル銃を発射する注意義務があるのにこれを怠り、亡確郎を獲物と誤認してライフル銃を発射した過失があるから、民法七〇九条により、亡確郎に生じた損害を賠償する責任がある。

3  相続(甲第一号証、弁論の全趣旨により認められる。)

亡確郎の相続人は、妻である原告宮田典子と、子である原告宮田幸果、同宮田和卓、同宮田恭裕である。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  過失相殺の要否、程度

2  亡確郎に生じた損害額

四  争点1(過失相殺)に関する当事者の主張

1  被告

本件事故に関しては亡確郎にも次のような過失があり、過失相殺により、少なくとも損害の三五パーセントが控除されるべきである。

(一) 着衣・着帽の色

狩猟者は、橙黄色又は赤色の服装・帽子を着用すべきであり、その旨の指導もなされていた。ところが、亡確郎は、上着・帽子ともに濃紺系統のものを着用しており、鹿などの動物との識別がきわめて困難な色であった。

(二) 「待ち場」の選定

本件事故の際の狩猟にあたり、被告及び亡確郎はいずれも、猟犬に追い立てられて出てくる獲物を「待ち場」で待ち受けて、これを射撃する「マチ」という役割を分担していた。

ところで、本件事故の際、亡確郎が選んだ「待ち場」は、以前に被告や亡確郎が狩猟をした際には「待ち場」としたことがない場所であり、しかも、被告の位置からやや下方で約七六メートルの至近距離であり、被告のいた「待ち場」に重ねてさらに「待ち場」として設定する必要がなかったばかりか、かえって、被告から発砲されやすい危険性のきわめて高い場所であった。そして、亡確郎は被告の位置を把握していたが、被告にとっては、そこに「マチ」の役割の人間がいるとは到底予想もつかない場所であった。

なお、ライフル銃は、銃弾が四キロメートル先まで飛行することがあるので、必ず下方の山腹に向かって発砲することとされている。

(三) 位置の伝達

狩猟に際しては、お互いの位置を確かめ合うことがきわめて重要であり、見通しがきき、声の届く範囲内では、手を振ったり、声を直接掛け合ったりして、自分の位置を伝達することが必要である。

ところが、亡確郎は、被告の位置を確認し、それらが可能であったことを認識していたにもかかわらず、無線機を通じて、「杉の木の上や」という抽象的なわかりにくい言葉で、自分の位置を被告に伝達したにすぎない。

2  原告ら

次に述べるように、本件事故に関し、亡確郎には、過失相殺の対象となるべき過失は存在しない。

(一) 着衣・着帽の色

本件事故当時、亡確郎らは鹿猟を行っており、亡確郎の着衣・着帽の色は、猪と間違えられることはあっても、鹿と見間違えられることはない。また、被告は、亡確郎の着衣・着帽の色を事前に認識していた。

なお、被告の着衣の色は、動物等ともっとも見間違えられやすい迷彩色であり、このような着衣をしていた被告に、亡確郎の着衣・着帽の色を非難する資格はない。

(二) 「待ち場」の選定

亡確郎の位置は、きわめて見通しのよい場所であり、獲物の通り道ではなかった。

しかも、本件事故は、銃弾がそれて亡確郎に命中したというものではなく、亡確郎を鹿と誤認した被告が狙いを定めてライフル銃を発射したものであるから、極言すれば、「待ち場」が危険であったか否かは無関係である。

(三) 位置の伝達

本件事故の前、亡確郎が被告に対して無線機を通じて自己の位置を伝達したのに対し、被告は「了解」と応答した。

そして、被告が亡確郎の位置を確認することができなかったのであれば、さらにすすんで亡確郎に対してその位置を明らかにするように指示することができたのに、被告はその位置を誤認したままであった。

したがって、亡確郎に、「待ち場」の伝達について落度があったということはできない。

五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

六  本件の口頭弁論の終結の日は、平成九年三月二五日である。

第三  争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)

1  乙第一、第二号証、第四号証、第六ないし第八号証、第一二ないし第一五号証、第一九号証によると、本件事故の態様に関し、次の事実を認めることができる((四)及び(五)については、乙第一三号証における被告の供述が乙第一五号証で訂正されており、後者の方が信用することができる。)。

(一) 亡確郎及び被告は、いずれも兵庫県西脇市近辺の同好の士で構成されている狩猟グループに属し、本件事故当時の亡確郎の狩猟歴は約六年、被告の狩猟歴は約三二年であった。

亡確郎及び被告は、本件事故の発生した平成六年一二月二五日も、他八名とともに、本件事故の発生場所付近に、狩猟のため訪れていた。

そして、本件事故の際の狩猟にあたり、右グループのうち二名が、猟犬を引き連れて獲物を追い立てる「勢子(せこ)」の役割を分担し、亡確郎及び被告を含む他の八名は、猟犬に追い立てられて出てくる獲物を待ち受けて、これを射撃する「マチ」の役割を分担していた。

(二) 同日午前九時ころ、右グループのうち一名を除く九名が、兵庫県出石郡但東町の河本集落に集合し、当日の打合せをした。

そして、右グループのうち、猟犬を連れてきた二名が自動的に「勢子」となり、他の八名が「マチ」となったが、それぞれの「待ち場」の定め方は、一つの谷に一人、あるいはテレビ塔の付近、という程度であった。

なお、その場に居合わせなかった一名は、無線機による連絡で、遅れて合流することが確認されていた。

(三) 亡確郎は、「マチ」の役割をする他の四名とともに、河本集落から「作業道奥畑線」を南西に自動車で進み、途中から徒歩で山道を南進した。右五名の中では、亡確郎が狩猟経験が長く、かつ、年齢が比較的若かったため、亡確郎が他の四名に対してそれぞれ「待ち場」を指示し、自らは、もっとも山頂部に近い所まで登っていった。

他方、被告は、河本集落から南にある西谷集落を経て、「林道舟木谷線」を西に自動車で進み、途中から徒歩で山道を北進した。

なお、右グループはいずれも携帯無線機を所持していたが、出力数が弱いため、一つの尾根を超えると互いに交信することができず、さらに、獲物に無用な警戒心を与えないためや、人間がまわりの物音を聞きわけることに集中するために、無線機のスイッチを切っていた者も多かった。

(四) 午前一〇時ころ、亡確郎及び被告は、それぞれ、自らが予定していた「待ち場」に到着した。

そのころ、被告と亡確郎との間で無線連絡があり、亡確郎が被告の「待ち場」近くまで登ってきたことが確認されたため、被告は、近くにいるはずの他の者に対し、「勢子」役の者に対して準備ができたことを順次連絡してくれるよう依頼した。ただし、「勢子」役の者は自らの判断で、午前九時三〇分ころからすでに入山を開始していた。

また、この時、被告は亡確郎に対し、どこにいるのかを尋ねたところ、亡確郎は、「杉の木の上や」という答え方をした。ただし、この時には、それぞれが他方の位置を確認したわけではなく、それ以上のやりとりはされなかった。

(五) 被告は、約三〇分間、当初の「待ち場」に待機していたが、その場所は尾根の頂上から約一〇メートル下方にあたり、無線が入りにくかったこと、この間、雑音に交じって「鹿が出た」という声が無線から聞こえたことなどから、尾根の上に移動した。この時、亡確郎から被告に対し、「尾に上がってきたか」という無線連絡があり、被告はこれを肯定した。

(六) さらにそれからしばらく経過した午前一〇時五〇分ころ、被告は、南西方向、標高差にして約二二メートル下方、直線距離にして約76.10メートルの地点に、何か黒っぽい物が動いているのを発見した。

なお、この時の被告の位置は、ほぼ尾根上の立木のない平坦な場所で、黒っぽい物が動いている位置は、斜面の中腹で、雑草の中に生えた高さ約四メートルの一本の立木のすぐ横に形成されている小さな藪の中であった。また、両者の位置の間は、すり鉢状半球形に中央が沈み、底部は杉林であった。このため、被告の位置から右黒っぽい物が動いている位置に向かっては、見通しは非常に良かったが、右藪の中にいる物を識別することは客観的に不可能であった。

そして、被告は、この黒っぽい物が鹿であると判断し、これに狙いをつけたが、折から霧雨が降っていたこともあって、どちらが頭でどちらが尻であるかの区別をすることができず、合計三度にわたってライフル銃をかまえて狙いをつけたが発砲せず、改めて両眼で確認するという動作を繰り返した。なお、被告のライフル銃には無倍率のスコープがついており、ライフル銃の射撃にあたっては、片眼でこの装置を通じて獲物を確認することとなるが、これによって、見通し、識別に変化はなかった。

このような経緯を経て、被告は、この黒っぽい物に照準を合わせ、左高撃ちの姿勢(直立して左肩と右腕とでライフル銃を固定し、左手指で引き金を引く姿勢。なお、被告は左利きである。)で一発、銃弾を発射した。すると、狙った黒っぽい物体が急に見えなくなってしまったため、被告は約1.8メートル前進し、第一弾の発射の約一分後に、第一弾の狙いと同じ地点付近に向かって、第二弾を発射した。

(七) 右射撃音はグループのほぼ全員が耳にしたところ、被告は、無線機で「射った物の確認をする。」旨の連絡をして、着弾位置に向かい、そこで亡確郎がすでに死亡していることを確認し、その旨を無線で連絡した。

そして、しばらくして数名が右現場に到着し、無線で山の下の方にいる者に警察への連絡が依頼され、午後〇時ころ、警察官が現場に到着した。

(八) なお、亡確郎の後頭部に貫通した銃創は一発であり、右経緯によると、被告の発射した第一弾が亡確郎に命中したことを確認することができる。

2  ところで、狩猟は、殺傷力のある銃器を使用し、いったん事故が発生したときは、人の生命・身体を直接侵害し、重大な結果につながるのであるから(本件もその例外ではない。)、これに携わる者に対しては、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律その他の法令において、厳重な注意義務が課せられ、併せて、狩猟の対象・場所・期間等について制限が加えられている。

また、狩猟の場所として許されている山野であっても、林業・農業に従事する者や、バードウォッチング・ハイキングなどを楽しんでいる者がいる可能性が常に存在するから、狩猟をしている者が銃弾を発射する具体的場面においては、狙いをつけた対象物が獲物であることを確認することと、その近辺に人間がいないことを確認することとは、銃を発射する者の負うべきもっとも基本的な注意義務というべきである。

ところが、すでに認定したとおり、被告は、客観的に識別が不可能な藪の中にいた黒っぽい物を鹿であると速断し、三度にわたって躊躇した後に、どちらが頭でどちらが尻であるかを識別しないまま射撃に及んだのであるから、「狙いをつけた対象物が獲物であることを確認する」という基本的な注意義務に反しており、その過失の内容はきわめて重大である。

さらに、以上の認定事実によると、被告は、亡確郎の正確な位置については把握していなかったものの、亡確郎が自分の北西方向に位置していることは把握していたと認めることができるから、「狙いをつけた対象物の近辺に人間がいないことを確認する」という基本的注意義務をがあったにもかかわらず、亡確郎の位置を確認することなく、射撃に及んだのであり、この点でもその過失の内容はきわめて重大である(なお、本件事故の直接の原因ではないが、前記認定のとおり、被告は、第二弾を、確かな狙いをつけることなく、第一弾の狙いと同じ地点付近に向かって発砲しており、さらに、弁論の全趣旨によると、被告には、グループ外の第三者の存在はまったく念頭になかったことが認められるところ、いずれも、狩猟者としての基本的な注意義務に反するきわめて重大な過失である。)。

3  そこで、続いて、被告の主張に即し、亡確郎の過失について検討する。

(一) 着衣・着帽の色

甲第五号証によると、本件事故当時、亡確郎は衣服の一番外側に雨ガッパを、頭には帽子を、それぞれ着用していたことが認められ、乙第一六号証、弁論の全趣旨によると、それらの色が紺色であったことが認められる。

ところで、乙第一六ないし第一八号証によると、狩猟の際の基本的注意事項として、狩猟者は、橙黄色又は赤色の着衣・着帽をすることとされていること、暗い色は、藪の中、遠方、薄暗い場所で識別しにくいので着用を避けることとされていること、他方、白色は、鹿と間違えられる可能性が大きいので着用を避けることとされていること、このことは、狩猟免許の更新時の講習の際等に指導されていることが認められる。

そして、本件事故の際、亡確郎が藪の中にいたことに鑑みると、亡確郎が橙黄色又は赤色の着衣・着帽をしていれば、本件事故が避けられた可能性もあったと解されるから、この点について、亡確郎の過失を認めざるをえない。

(二) 「待ち場」の選定

乙第一六ないし第一八号証によると、狩猟にあたって、いったん選んだ「待ち場」を無断で離れることは非常に危険な行為とされていることが認められ、乙第六、第七号証によると、本件事故の際、初心者であった村上正展は、亡確郎から指示された「待ち場」に着いてから本件事故が発生するまでの約一時間三〇分、右「待ち場」を離脱していないことが認めれらる。

他方、前記認定のとおり、亡確郎及び被告は、午前一〇時ころ、それぞれが予定していた「待ち場」に到着し、被告は約三〇分間、右「待ち場」で待機した後、自分の方から他に連絡することなく、無線交信を受けやすくするという理由のみで尾根の上に移動しているが、本件全証拠によっても、右「待ち場」の移動の理由が合理的であるとは認められない。

また、亡確郎が当初の「待ち場」から移動したことを窺わせる証拠はなく、亡確郎の「待ち場」が、獲物を待ち受けるのに不適当な場所であったことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、亡確郎の「待ち場」は、被告の尾根の上への移動によって、結果として、被告との相対的な位置関係において不適当な場所になったにすぎないと解すべきであって、右「待ち場」の選定を亡確郎の過失とすることはできない。

(三) 位置の伝達

前記認定のとおり、亡確郎が被告に対して位置を伝達したのは、被告が当初の「待ち場」にいた時であって、尾根の上へ移動した後ではない。そして、この時点では、お互いに見とおすことができる位置関係にはないから、相互の視認の可能性を前提とした被告の主張を採用することはできない。

また、その伝達内容である「杉の木の上」という亡確郎の言い方も、客観的な位置と合致しており、それ自体が不適当なものとは解されない。

したがって、位置の伝達に関し、亡確郎の過失を認めることはできない。

以上の認定事実をもとに検討すると、前方の藪の中に黒っぽい物が動いたのを認めた時、被告は、これが鹿であることを間違いのない事実として認識するまでは、ライフル銃の発射を差し控えるべきであった。また、右藪以外には周囲の見通し状況が良かったのであるから、ライフル銃を発射する前に、無線機を用いて、亡確郎の位置を確認すべきであった。

他方、もし、亡確郎がライフル銃をかまえた被告を視認していれば、直ちに大声を出すなどの方法で警告を発していたはずであるから、亡確郎がライフル銃をかまえた被告を視認したとは認められず、前記認定のとおり、本件事故が発生したのは、被告が尾根の上に移動してから約二〇分経過した後であるから、亡確郎がライフル銃をかまえた被告を視認しなかったことについて、亡確郎に責められるべき点は認められない。

そして、被告がライフル銃をかまえた後は、亡確郎には、本件事故の回避可能性は絶無であったというべきであり、たかだか、3(一)で考察した着衣・着帽の色のみが亡確郎の過失として考慮されるべきである。

そして、2記載のとおり、被告の過失はきわめて重大なものであることに鑑みると、以上認定した事実の下では、本件事故に対する亡確郎の過失の割合を一〇パーセントとするのが相当である。

二  争点2(亡確郎の損害)

争点2に関し、原告らは、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、亡確郎の損害及び原告らが請求しうる金額として認める。

1  亡確郎の損害

(一) 損害

(1) 逸失利益

本件事故当時、亡確郎が満四二歳であったことは当事者間に争いがなく、甲第二号証の一及び二、乙第一〇号証によると、亡確郎は、本件事故当時、有限会社宮田コンクリートの代表取締役であったこと、右会社は、亡確郎及びその家族により営まれており、他の従業員は一名にすぎないこと、税務上、亡確郎は、同社から給与を支払われているものとして申告がなされていること、平成五年の亡確郎の給与収入は年間三九六万円であったこと、平成六年の亡確郎の給与収入は、一月から一一月まで毎月各金三四万六〇〇〇円、合計金三八〇万六〇〇〇円であったこと、亡確郎は、原告ら家族とともに、一家の支柱として生活していたことが認められる。

そして、これらによると、亡確郎の死亡による逸失利益を算定するにあたっては、同人が満六七歳までの二五年間、少なくとも年間金四一五万二〇〇〇円(平成六年の月間収入金三四万六〇〇〇円の一二か月分)の収入を得る蓋然性が高いものとして、生存していれば必要な生活費としてその三〇パーセントを控除した上、本件事故時における現価を求めるため、中間利息の控除を新ホフマン方式によるのが相当である(二五年間に相当する新ホフマン係数は15.944。)。

したがって、亡確郎の死亡による逸失利益は、次の計算式により、金四六三三万九六四一円となる(円未満切捨て以下同様。)。

計算式 4,152,000×(1−0.3)×

15.944=46,339,641

(2) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、亡確郎の年齢、家族関係、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、亡確郎の死亡に伴う慰謝料を金二五〇〇万円とするのが相当である。

(3) 小計

(1)及び(2)の合計は、金七一三三万九六四一円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する亡確郎の過失の割合を一〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、右損害から右割合を控除することとする。

したがって、過失相殺後の金額は、次の計算式により、金六四二〇万五六七六円である。

計算式 71,339,641×(1−0.1)=

64,205,676

(三) 損害の填補

亡確郎の損害のうち、金四六八四万円が填補されたことは当事者間に争いがない。

そして、右金員を過失相殺後の金額から控除すると、金一七三六万五六七六円となる。

(四) 遅延損害金相当分

右損害の填補後の金額に対する本件事故日である平成六年一二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求は理由がある。

ところで、右損害の填補に相当する金額のうち、本訴提起後の平成八年五月二九日、被告が原告らに対して金五〇〇万円を支払ったことは当事者間に争いがない。

そして、原告らは、右五〇〇万円を損害金の元金に充当し、これに対する本件事故日である平成六年一二月二五日から右支払日である平成八年五月二九日まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を別途請求するところ、右請求も理由がある。

なお、右期間は一年と一五七日(うち、うるう年である平成八年の日数は一五〇日。)であるから、遅延損害金は、次の計算式により、金三五万七二五三円である。

計算式

2  原告宮田典子

(一) 相続分

原告宮田典子が相続するのは、1(三)の二分の一に相当する金八六八万二八三八円及び1(四)の二分の一に相当する金一七万八六二六円である。

(二) 葬儀費用

亡確郎の年齢、職業、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある葬儀費用を金一二〇万円とするのが相当である。

そして、争点1について判示したとおり、本件事故に対する亡確郎の過失の割合を一〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺により右割合を控除すると、金一〇八万円となる。

(三) 弁護士費用

原告宮田典子が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額((一)及び(二)の合計額は金九九四万一四六四円)、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金七五万円とするのが相当である。

(四) 遅延損害金

平成六年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の対象となるのは、(一)ないし(三)の合計金一〇六九万一四六四円から1(四)の二分の一に相当する金一七万八六二六円を控除した金一〇五一万二八三八円である。

3  その余の原告ら

(一) 相続分

原告宮田典子を除くその余の原告らが相続するのは、それぞれ、1(三)の六分の一に相当する金二八九万四二七九円及び1(四)の六分の一に相当する金五万九五四二円である。

(二) 弁護士費用

原告宮田典子を除くその余の原告らが本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額(金二九五万三八二一円)、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金二五万円とするのが相当である。

(三) 遅延損害金

平成六年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の対象となるのは、(一)及び(二)の合計金三二〇万三八二一円から1(四)の六分の一に相当する金五万九五四二円を控除した金三一四万四二七九円である。

第四  結論

よって、原告らの請求は、主文第一、第二項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官永吉孝夫)

別紙<省略>

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